明治時代の未遂論について (中野 正剛)

 本書は、日本刑法学の黎明期にあたる明治時代に焦点を合わせ、とくに現代でも刑法理論上未解決の問題点を多く含む未遂犯論を中心に据えて叙述することを通して、我が国の現在の刑法学が現代のドイツ法優位の理論へとつながってゆく契機を浮き彫りにするひとつの試みである。本書の構成概略は次の通り。

はじめに
第一部 明治前期における我が国の未遂論について(ボアソナード・宮城浩蔵・井上正一)
第二部 明治後期における我が国の未遂論について(江木衷・古賀廉蔵)
第三部 総括
 

 本書は、我が国への外国法継受の時系列に即し、明治時代を旧刑法典に対する解釈学がほぼ確立する明治20年を境として前期と後期に分けて各々につき第一部と第二部に編別して構成されている。

 第一部ではボアソナードによって我が国に持ち込まれたフランス刑法とその刑法学が、どのように紹介されまた我が国でどのように消化、変貌していったかを述べている。その過程を明らかにするために当時有力な刑法家であった宮城浩蔵と井上正一を取り上げてその未遂論の構造を、その師、ボアソナード、オルトラン、ベルトール等の原典を参照しながら分析を加えた。

 第二部では前期で優位であったフランス法の流れがドイツ法への流れへと変遷してゆく様子を未遂犯論にかかわる議論を中心に据えて述べている。その過程を明らかにするために当時有力であった個性的な刑法家、江木衷と古賀廉造を取り上げて、その未遂論の構造を、その模範としたベルナーとリスト等の原典を参照しながら分析を加えた。

 第三部では、未遂犯論の解釈学の展開を総括しながら、ボアソナードによって典型的に示される西欧の共和主義的思想が、その後継者(宮城・井上等)によって徐々に官僚法学的色彩によって希釈されてゆき、明治後期に至ると、いっそう官僚法学的志向が伸展されてゆくことを明らかにした。そしてこの様な動きを土壌にして我が国に牧野英一に代表される新派の流れが現れ、日本にドイツ法の流れを汲む新旧学派の対立が生まれることを叙述している。

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