本論文は、オーストリアの作曲者、フーゴー・ヴォルフ Hugo Wolf(1860-1903)の全リート314曲を対象に、歌唱旋律に含まれる同音反復の分析的考察を行うことで、彼のリートにおける朗唱性と独自性を明らかにするものである。ヴォルフは先行研究において「朗唱リートの完成者」と呼ばれ、そのリートにおいて同音反復と朗唱性の関連が指摘されてきたが、分析的な観点からの研究は行われてこなかった。そこで、同音反復を他の音楽的要素との関連から分類した結果、以下の点が明らかになった。
同音反復自体は、同一な音楽的要素の連続と見なされるが、そこに他の音楽的要素が加わり、変化が起きることで差異が生じ、それが言葉の表現と結びつくのである。また、同音反復は、特に盛期以降に作曲された歌曲集において、歌曲集全体の題材を総 合的に表現する役割をも果たしている。以上から、この二種類の同音反復の用法が、 彼のリートに朗唱性を生み出すと言えよう。